黒猫の物語



黒猫は、この場所に来ると昔のことを思い出します

お母さんは言いました

「たいていの事は黒猫にはわかっている
 
             あとは自分次第さ」


黒猫はじっと考えました

「母さん、僕にはとても難しいよ」


それでも毎日、なんとかやってきました


黒猫は、お父さんのような大胆不敵さも細心の注意も持ち合わせていませんでした

だから眠れないこともありました

ほとんどの事がよくわからなかったので、一生懸命考えてもなかなかいい案は浮かんでこないのです

仲間達はいろんな忠告をしてくれました

黒猫はうなずいて聞いていました

仲間たちの言い分にはそれぞれに「そうだな」と思うことがありました

ほとんどのことは「そうだな」と思いましたが、裏切ることだけは好きになれませんでした

それは考えてもどうしようもないことでした



そんな黒猫にも素敵な彼女ができました


二匹は毎日いろんなおしゃべりをしました

黒猫は彼女の優しい声が大好きでした

彼女の声の中には「そうだな」と思うことがたくさんありました


彼女は献身的な猫でした


やがて黒猫と彼女の間にかわいい子供達が誕生しました

子供達は黒猫に毎日いろんなことを質問しました

「そうだなあ。  お母さんに聞いてみたかい?」

「お母さんに聞いても分からないことは、どうしたらいいの?」

「そうだなあ。     あとは自分次第さ」

子供達は 「わかった」 と言うこともありましたし 「わからない」 と言うこともありました

彼女はただ微笑んでいました


やがて子供達もそれぞれに立派な猫に成長して、黒猫と彼女のもとを巣立っていきました


そして、ある日とても悲しいことが起こりました

高い熱を出した彼女が、三日目の晩に

「お父さん、本当にありがとう 」

そういい残して、永遠の国に旅立ってしまったのです

あまりにも突然の出来事でした


黒猫は悲しくて、悲しくて何も手につかなくなりました

一日中彼女のことを考えました

考えても、考えてもどうしようもなくて、涙が溢れて止まらないのです

一日が始まり、終わることが、こんなに辛いことだとは知りませんでした


三ヶ月目の晩に、黒猫はこの場所にやってきました

そしてお母さんのことを思い出しました


「母さん、 僕は ・・・」


ゆっくりと見上げると、お月様の中でお母さんはにっこりとほほ笑んでいました


「母さん、 僕にはとても難しいよ ・・ 」



もう一度ゆっくりと見上げると、お母さんと一緒に彼女もにっこりと笑っていました

黒猫は初めて、 自分はひとりではないのだ と、わかりました

涙でぐちゃぐちゃになっていた黒猫の顔に、初めて静かな安らぎが浮かびました


黒猫は、いつまでも、いつまでも、空を見上げていました


お月様の優しい光が、ただ黒猫の肩を照らしていました
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by an_que_an531wan | 2011-02-14 21:44 |


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